「為替は動かないのに、“驚くほどの金利差”の金利が取れる通貨ペアがある——?」
そんな信じがたい話が、今の香港ドル(HKD)をめぐる為替市場で現実に起きています。
しかもその背景には、香港の通貨制度「カレンシーボード制」が深く関わっています。
2025年5月、香港金融管理局(HKMA)が大規模な為替介入を行った結果、香港ドルの短期金利はゼロ近くまで急落しました。
一方、米ドルは依然として高金利。これにより、USD/HKDの買いポジションに「為替リスクの少ないキャリートレード」の妙味が生まれたのです。
この記事では、USD/HKDキャリートレードがいま注目される理由と、カレンシーボード制という制度の裏にある歪みとチャンスをわかりやすく解説していきます。
なぜ今、香港ドルが“熱い”のか?キャリートレード注目の背景
「為替リスクがほとんどなく、高いスワップがもらえる通貨ペアがある」と聞いたら、にわかには信じられないかもしれません。
しかし、いま実際にそんな夢のような状況が香港ドル(HKD)で起きているのです。
香港ドルは、1米ドル=7.75〜7.85HKDの範囲で米ドルに連動しており、値動きが非常に小さい通貨です。それにもかかわらず、スワップポイントは高水準を維持しています。
その背景には、2025年5月に発生した「香港ゼロ金利ショック」があります。
米国の金利が高止まりする中、香港金融管理局(HKMA)が大規模な為替介入を実施したことで、香港ドルの短期金利(HIBOR)がほぼゼロ%まで急低下しました。
つまり、「米ドルを買って香港ドルを売るだけで、為替変動をほとんど気にせず、高いスワップを得られる」状態になっているのです。
この状況は、為替レートが安定しているからこそ成り立つキャリートレードの理想形です。
為替のボラティリティが小さいにもかかわらず、金利差によって確実に収益を積み上げることができます。
本記事では、この異常ともいえる環境の背景にあるカレンシーボード制の仕組みを解説しながら、
なぜ今、USD/HKD(米ドル買い・香港ドル売り)のポジションが魅力的なのかを、わかりやすくご紹介していきます。
香港ドルのしくみ|カレンシーボード制と為替の安定
香港ドル(HKD)は、1983年から米ドルと為替レートを連動させる「カレンシーボード制」(通貨ボード制)を採用しています。
この制度の最大の特徴は、1米ドル=7.75〜7.85香港ドルという狭い範囲で為替レートを固定的に管理している点です。市場の需給によって多少の変動はあるものの、為替レートがこのレンジを超えそうになると、香港金融管理局(HKMA)が即座に介入します。
たとえば、米ドルに対して香港ドルが安くなり(USD/HKDが7.85に張り付くような状態)、レンジの上限を超えそうになれば、HKMAはドルを売って香港ドルを買うことで、HKD高に戻そうとします。
反対に、香港ドルが高くなりすぎて(USD/HKDが7.75に張り付くような状態)、レンジの下限に近づけば、香港ドルを売ってドルを買うことで、HKD安に誘導します。
このような介入が頻繁に行われるため、USD/HKDはまるで通貨の「定規」のように、ほとんど動かないチャートとなります。
USD/HKDの長期チャート(2004年〜2025年)

また、通貨ボード制のもうひとつの重要なポイントは、香港ドルを発行するには、裏付けとなる米ドルを同額保有していなければならないという点です。これにより、香港ドルの信認が保たれており、中央銀行による恣意的な通貨増刷や金利操作ができない仕組みになっています。
つまり、香港は「為替レートの安定性」を犠牲にすることなく維持しつつ、その代わりに金利政策の自由を完全に放棄しているのです。
香港で起きた「ゼロ金利ショック」とは何か?
2025年5月、香港ドル市場に異変が起きました。
それまで2〜4%台で推移していた短期金利(HIBOR:香港銀行間取引金利)が、わずか数日でほぼゼロ%まで急低下したのです。
原因は、香港金融管理局(HKMA)の大規模な為替介入です。
このとき、香港ドルは米ドルに対して強くなりすぎ、USD/HKDが7.75(ペッグの下限)に張り付く状況となっていました。
HKMAはペッグを維持するため、米ドルを買い、香港ドルを市場に放出する介入を実施しました。
その結果、香港の銀行間市場には潤沢すぎるほどの香港ドル資金が流れ込み、資金の貸し手が余る状態に。
需要に対して供給が多すぎると、金利は当然ながら下がります。こうして、HIBORは急落し、実質ゼロ金利の環境が出現したのです。
HIBORの推移(2024年8月〜2025年8月)

この事態により、香港ドルの借入コストはほぼゼロとなり、米ドルとの金利差は4%超まで拡大します。
これこそが、次章でご紹介する「為替変動のないキャリートレード」という絶好のチャンスにつながっていくのです。
為替は動かず、スワップだけもらえるキャリートレードの実態
香港ドルの短期金利(HIBOR)がゼロに近づいたことで、米ドルと香港ドルの間には4%以上の金利差が生じました。
そして、ここにカレンシーボード制による為替の安定が加わることで、前例のないキャリートレード環境が出現しています。
🔑 どういう取引か?
キャリートレードの基本は、「金利の低い通貨を売って、金利の高い通貨を買う」ことです。
現在のUSD/HKDでは、
- 香港ドル(HKD)を売る=金利ほぼ0%
- 米ドル(USD)を買う=金利4.5%前後
という構図になっています。
しかも、USD/HKDは7.75〜7.85の間で固定されているため、為替の大きな変動リスクがほぼありません。
その結果、「値動きしないのに、スワップだけがもらえる」という、スワップ投資家にとって夢のようなポジションが成立しているのです。
💰 実際のスワップ収益は?
たとえば、サクソバンクでUSD/HKDを1万通貨(10,000ドル)買いポジションを持つと、
2025年7月時点では月間で約3,500円程度のスワップ収益が得られていました。
また、日本のFX業者を使って合成ポジションを組むことも可能です。
具体的には、以下のようなポジションを取ります。
- USD/JPY を買い(ドル買い・円売り)
- HKD/JPY を売り(香港ドル売り・円買い)
この2つを組み合わせることで、USD/HKDの買いと同じポジションが構築できます。
たとえば、みんなのFXで同等の合成ポジションをとった場合、スワップ収益でを引いた純収益は月間で約3,200円となっていました(2025年7月時点)。
※スワップ収益は受取額の目安であり、スプレッドなどの取引コストを差し引いた後の実質収益とは異なります。
香港金融管理局(HKMA)が金利を動かせない理由
ここまで見てきたように、現在のUSD/HKDキャリートレードが成立している最大の理由は、香港ドルの金利が異常に低いことにあります。
では、なぜ香港金融管理局(HKMA)は、これほどまでに下がった金利を引き上げることができないのでしょうか?
その答えは、香港の通貨制度「カレンシーボード制(通貨ボード制)」にあります。
🔒 通貨の安定と引き換えに、金利は「操作できない」
カレンシーボード制とは、通貨の発行量を外貨準備(=米ドル)で完全に裏付ける制度です。
この制度の最大の目的は、「為替レートの安定を絶対に守ること」。
そのために、香港ドルの発行は、保有している米ドルと完全にリンクされており、HKMAが独自に金利を動かすことはできません。
🔄 政策金利は設定できても、市場金利はコントロールできない
HKMAの政策金利(Base Rate)は、以下のようなルールで機械的に決まります。
「米国のフェデラルファンド金利(FF金利)+50bp」または「香港の銀行間金利(HIBOR)」のうち、高い方
つまり、香港は通貨制度としてアメリカの金利に連動する仕組みを採用しているため、中央銀行が独自に利上げ・利下げを行うことはありません。
しかし、実際に市場で使われる短期金利、つまりHIBOR(Hong Kong Interbank Offered Rate)は、あくまで銀行間の資金需給によって決まる「実勢金利」です。
このため、HKMAがどれだけ高い政策金利を掲げていても、市場に香港ドルがジャブジャブに余っていれば、HIBORは勝手に下がってしまいます。
まさに2025年5月のように、HKMAの介入によって市場に大量の香港ドルが供給されると、HIBORはゼロ近くまで低下し、金利差キャリートレードを誘発する構図が生まれるのです。
⚠ この状況、ずっとは続かないかもしれない
一時的なキャリートレードなら問題ありませんが、この金利差に大きな資金が流れ込むようになると話は別です。
膨大な資金が香港ドルを売って米ドルを買い続ければ、HKMAの外貨準備が圧迫され、いずれはペッグ維持が困難になる可能性も出てきます。
この状況は、ある意味で制度の限界を試されているとも言えるでしょう。
ペッグ制の限界とUSD/HKDロングの“隠れたオプション”
まUSD/HKDでは、為替がほとんど動かず、スワップが安定的にもらえるという、投資家にとって非常に魅力的な環境が続いています。
しかし、このような「ボーナスタイム」が永遠に続くわけではありません。
なぜなら、このキャリートレードの構造そのものが、香港の通貨制度=カレンシーボード制に対する挑戦となっているからです。
📉 キャリートレードが制度を揺るがす
金利差が続けば続くほど、資金は香港ドルから米ドルへと流れ続けます。
具体的には、世界中の投資家が
- 金利ゼロの香港ドルを売って、
- 高金利の米ドルを買い、
そのまま米国債やドル建て資産に資金を移していくことになります。
こうしたキャリートレードが拡大すると、HKMAは7.85の為替上限を維持するために、際限なくドルを売り続けなければならなくなります。
つまり、HKMAの外貨準備が徐々に減っていくということです。
外貨準備が枯渇すれば、ペッグは維持できません。
⚠ ペッグが崩れれば、どうなるか?
仮にHKMAがこの金利差を維持できず、ペッグ制を見直す(例えばレンジを拡大する or 固定レートを解除する)ような事態になれば、USD/HKDの為替レートは大きく動く可能性があります。
そして、もしその方向が「ドル高(=USD/HKDが7.85を超えて上昇)」であれば、
現在のUSD/HKDロングポジション(ドル買い・香港ドル売り)は、スワップだけでなく為替差益まで取れるという、爆発的なリターンを生むポジションになります。
これはまさに、「為替が動かないうちは安定収益、もし動けば大きく儲かる」という、片方向に賭ける“サイレント・オプション”のような存在です。
まとめ:為替が動かないうちに、静かに稼ぐ戦略とは?
この記事では、香港ドル(HKD)が米ドルにペッグされた通貨であること、そして2025年春以降、ゼロ金利という異常な状況が出現したことを見てきました。
現在のUSD/HKDでは、
- 為替レートがほぼ動かない
- 金利差が4〜5%ある
- ポジションを持つだけでスワップが得られる
- ペッグが崩れた場合、為替差益のチャンスもある
という、スワップ派にとって非常に魅力的な環境が整っています。
また、このキャリートレード戦略は、サクソバンクなどのFX業者を使ってUSD/HKDを直接取引する方法のほか、日本のFX業者でもUSD/JPYの買い+HKD/JPYの売りという合成ポジションで再現することも可能です。
もちろん、キャリートレードには金利差が続く限りの「時間制限」がありますし、制度への過度な依存はリスクにもなります。しかし、通貨制度が制約を抱えているからこそ成立する歪みは、投資のチャンスとも言えます。
💡 結論:これは「動かなければ儲かり、動けばさらに儲かる」ポジション
為替の安定とスワップ収益を両立できるこの戦略が成立するうちに、少額からでもポジションを取ってみる価値は十分にあるのではないでしょうか。
香港ドルは、今まさに熱い夏を迎えています。
カレンシーボードが揺らぐその前に、この静かな波に乗ってみませんか?
USD/HKDの取引を始めるには?
USD/HKDのキャリートレードをシンプルに実践したい方には、サクソバンク証券の口座開設がおすすめです。USD/HKDが直接取引できる数少ない業者であり、スワップポイントも安定的で高水準です。
レバレッジやロットサイズの調整も可能で、少額からでも始められます。
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