これまで紹介してきた「多通貨スワップ戦略」は、複数の通貨を組み合わせてリスクを分散しながら、安定したスワップ収入を目指す手法です。
GMOクリックが驚異のスワップを出しているハンガリーフォリント円にユーロ円などを組み合わせ、為替変動の影響を抑えるのが狙いでした。
しかし、当初の公開版では「トルコリラ円」をあえて外していました。
高スワップ通貨の代表でありながら、”レートが一定割合で下がるクセ”の調整が難しいと判断したためです。
今回はその特徴を整理しつつ、トルコリラをポジションに“スワップを調整して組み込む”新アプローチを紹介します。
記事後半では、実際にExcelソルバーを使って通貨ごとの最適配分を求める手順も、スクリーンショット付きで解説します。
▶あわせて読みたい関連記事
なぜ多通貨スワップ戦略でトルコリラを外していたのか?
トルコリラ円は、高スワップ通貨の代表格として注目されています。
しかし、以前に公開した「多通貨スワップ戦略」では、あえてこの通貨ペアを組み入れていません。
その理由は明確で、トルコリラは構造的に下落する通貨だからです。
高スワップでも報われにくい通貨構造
トルコリラは一見すると魅力的なスワップポイントを提供しますが、為替レート自体が長期的に下落する傾向にあります。
背景にあるのは、米ドルに対するソフトペッグ構造です。
トルコ当局はリラの下落ペースを一定範囲でコントロールしており、名目上は為替の安定を保ちながら、実質的には緩やかな通貨安を容認しています。
このため、投資家にとっては「高金利だが必ず値下がりする通貨」というジレンマを抱えることになります。

💡ソフトペッグ通貨の特徴と狙い方については、こちらの記事で詳しく解説
👉 FXのスワップ投資はソフトペッグ通貨を狙え!安定収益と高金利を両立できる理由
最適化すると“リラだらけ”になる問題
実際、前回公開した多通貨スワップ戦略のExcelファイルに、トルコリラ円のスワップポイントをそのまま入力して最適化を行うと、最適解がトルコリラ円を過剰に保有する結果になりやすいことが分かりました。
理由はシンプルで、Excel上の最適化モデルはスワップ収益を「期待リターン」として扱うため、リスク(通貨下落)を正しく反映できないからです。
つまり、実際の相場ではスワップで得る利息以上にリラが下落するリスクがあるにもかかわらず、数値上は“最も効率的な通貨”として誤って選ばれてしまうのです。
だからこそ、下落を調整した上での組み入れが必要
このように、トルコリラ円をそのまま組み込むと、
理論上は高リターンに見えても、実際にはポートフォリオ全体の安定性を損ねるおそれがあります。
だからこそ重要なのは、「除外する」ではなく「下落リスクを調整して組み入れる」という発想です。
次章では、この構造的な通貨安を補正しながら、リラを戦略的にポートフォリオへ取り込む方法を解説します。
トルコリラの下落リスクをどう補正するか
トルコリラを多通貨スワップ戦略に組み入れる際に最も重要なのは、為替下落リスクを定量的に補正することです。
スワップポイントがどれだけ高くても、為替が同じペースで下落してしまえば実質的な収益はゼロになります。
そのため、リラの“平均的な下落速度”を推定し、それを期待リターンから差し引く必要があります。
● ドル/リラの下落トレンドを数値化する
下のグラフは、直近252営業日(約1年)における TRY/USD(トルコリラ/米ドル) の推移と、
対数回帰によって求めた下落トレンド(赤い破線)を示しています。

この回帰式から推定される年率ドリフトは −22.3%。
つまり、過去1年間のリラは平均して年率22%ペースで下落していた計算になります。
この値を、ポートフォリオ最適化で使う「期待リターン」から控除して補正します。
具体的な補正の手順(Excelでの入力例)
いま、トルコリラ円が 3.6円、
1万通貨(10,000 TRY)を保有すると想定しましょう。
先ほどのグラフが示すように、トルコリラ/ドルは年率22%のペースで下落しています。
これを金額換算で調整するには、次の式で1日あたりの“下落分”を求めます。
36,000円 × 22% ÷ 365 ≒ 22円
つまり、リラを1万通貨保有した場合、為替の下落によって1日あたり約22円分の価値が失われていることになります。
このため、スワップの名目収益からこの分を差し引いて考えると――
実効スワップ = 31円 − 22円 = 9円
これが、為替下落を考慮した“現実的な期待スワップ”です。
つまり、名目上は31円のスワップでも、現実的に獲得できる収益は9円程度ということになります。
こうすることで、トルコリラ円の異常なスワップ水準に惑わされず、実際の「通貨価値変化」を反映した現実的なリターン構造を得ることができます。
下落を織り込むことでリラは“使える通貨”になる
このように、為替下落をマイナスリターンとして補正しておけば、多通貨スワップ戦略を設計する際にも、リラが過剰に評価されることはありません。
高スワップを“無視する”のではなく、下落リスクを織り込んだ上で現実的に評価することが、戦略全体の安定性につながるのです。
次章では、この補正後のスワップ水準を前提に、実際にExcelファイルを使ってどのように最適化を行うかを解説します。
Excelソルバーで最適なスワップ配分を求める手順(初心者OK)
ここからは、補正済みの「スワップポイント」を使って、Excelのソルバー機能で通貨ごとの最適配分を求める方法を紹介します。
専門的な知識は不要で、Excelさえあれば誰でも再現できます。
💾 実際に使えるExcelファイルをダウンロード
ステップ①:あなたのスワップ計画を整理してみよう
まずは、自分のスワップ投資の全体像を明確にしておきましょう。
ソルバーはあくまで“与えられた条件の中で最適解を探すツール”です。
前提条件が曖昧なままだと、現実的な結果が得られません。
以下は一例です。自分の運用方針に合わせて、数字を調整してみてください。
- 投資額:100万円
- 1年間の目標収益:100万円
- 最大レバレッジ:20倍
- スワップ投資したい通貨:トルコリラ円、メキシコペソ円、ハンガリーフォリント円、チェココルナ円
この段階では、多少“無茶な”計画でも構いません。
ソルバーは、不可能な条件なら「解なし」として警告してくれるため、まずは自由に設計してOKです。
ステップ②:初期設定を入力
次に、Excelシート上で初期設定を行います。
以下のように、初期条件を入力してください。
リスクを抑えるためのヘッジ通貨として、ドル円(USD/JPY)とユーロ円(EUR/JPY)を追加することが必須です。
これらの通貨ペアには 「−1000」 などのマイナス値を入力しておいてください。

ステップ③:ソルバーの設定
準備が整ったら、Excelのメニューバーから
[データ]→[ソルバー] を開きます。

画面右側に設定ウィンドウが表示されたら、以下の手順で項目を指定してください。
- 赤枠:目的セルを「D26」に設定
- 青枠:「最大値を求める」を選択
- 緑枠:投資したい通貨ペアの数量セルをすべて選択。Ctrlキーを押しながら複数選択が可能。
- ピンク枠: 「追加」ボタンを押し、レバレッジの上限(例:20倍)を設定。
- オレンジ枠:1年間の目標収益額(例:100万円)を指定
- 茶色枠: 「制約のない変数を非負数にする」のチェックを外します。これにより、売りポジション(マイナス値)も許可されます。
すべての条件を入力したら、[解決]ボタンをクリックします。

※エクセルのソルバーは、初期値設定に敏感で思ったような結果が出ないことがあります。
・ステップ④の結果を初期ととして、自分なりの調整(TRY=0)として最適化する
・最適解に到達前に止まることがあります。その場合は、再度最適化してください。ただし、ショートにしているUSDJPYとEURJPYがゼロとなっていた場合は、再度-1000にして最適化してください。
ステップ④:結果を確認する
ソルバーが解を導き出すと、各通貨ペアに割り当てられる最適数量が表示されます。
今回の例では、当初設定した目標(収益・レバレッジ)を満たす結果が得られました。
ただし、現実の取引には取引上限などの制約があります。
たとえば、GMOクリック証券ではハンガリーフォリント円の上限が1,000万通貨までです。
その場合は、該当セルに「1,000万」と入力し、再度ソルバーを実行してください。
他の通貨ペアの数量が自動的に調整され、現実的な最適ポートフォリオが得られます。

すると、以下のような結果になりました。このへんは、色々と模索してみてください。

ステップ⑤:結果をもとに試行錯誤する
ソルバーの出力は「最適解」ではありますが、それは与えた条件のもとでの最適にすぎません。
たとえば:
- レバレッジ上限を15倍に下げたらどうなるか?
- 目標収益を80万円に変更したら?
- トルコリラ円を上限50万通貨に制約したら?
といった形で条件を変えて再実行すると、ポジションの方向性がどのように変わるかが視覚的に分かります。
まとめ:トルコリラは“除外”ではなく“調整して使う”
本記事では、多通貨スワップ戦略の目的に沿って、トルコリラのスワップを“調整して活用する”方法を紹介しました。
トルコリラは単体で見れば下落リスクの大きい通貨ですが、為替下落を補正し、ポートフォリオ全体で分散すれば、リターンを押し上げる有効なパーツとして機能します。
添付のExcelファイルは、ソルバーの操作に慣れていない方には少し難しく感じるかもしれません。
しかし、一通貨ペアに全力で投資していた従来のスワップ戦略を、同じスワップ収益を維持しつつ、より安定した構成に変えるきっかけになるはずです。
リスクを「避ける」ではなく「管理する」。
その第一歩として、ぜひ実際にExcelを開いて挑戦してみてください。
多通貨スワップ戦略を行うGMOクリック証券の口座開設が必要
多通貨スワップ戦略ができるかどうかは、業者選びで決まります。
GMOクリック証券は、今回の検証でも見たとおり「フォリント円スワップの高さ」で他社を圧倒。
せっかく戦略を知っても、スワップが低い業者では再現できません。
👉 GMOクリック証券の詳細はこちら

コメント